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「あの、今日はいろいろ……ごめんなさい」
ハルは頸を振った。
「いいのよ。今日は朝から大忙しだったわね、秋鹿。明日も手伝ってもらえますか、」
「でも……、」
またハルの迷惑になるだけだったら、どうしよう。
「私は秋鹿に手伝ってもらえると嬉しいわ。それに愉しいの。でも、秋鹿が厭なら、無理強いはしません」
「……」
秋鹿は口を噤んだ。何と答えれば正解なのか、自分はどうしたら良いのか、どうすればハルのやさしい気持ちに添えられるのか、誰も困らせないで済むのか。迷えば迷うほど、答えは遠ざかっていく。
押し黙ったままの秋鹿に、ハルは訊ねた。
「秋鹿は、ケーキを作ることが大好きですか、」
「え……?」
ハルは秋鹿の食べかけのレモンタルトを微笑んで見つめた。
「今日、一緒にケーキを作っていて、私にはそう見えましたよ。秋鹿の姿は見えないけれど、あなたが愉しそうなのは、判りました」
「……はい」
「好きなことがあると云うのは、心勁いことですね。私もね、秋鹿。料理があったから、どうにか愉しくやってこられたの。大好きな料理が、私と世界を繋いでくれました」
こうしてお店を開くことも出来たしと、店内を見回す。
「自分の好きなことを信じてみたら、お腹の底から勇気が出ますよ」
ハルは云って、自分の分のレモンタルトの最後の一口を、おいしそうに食べた。その満ち足りた笑顔に、秋鹿の心の靄が、わずかに晴れる。
「……明日もよろしくお願いします」
ハルに頭を下げると、ハルも背条を伸ばして、
「はい、よろしくお願いします」
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