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 掃除を済ませると、次に二人はキッチンに入った。 「今日も秋鹿にはケーキを作ってもらいましょう」 「はい」 「じゃあ、レモンタルトを」  え、と、秋鹿は返事に詰まった。 「今日も暑くなりそうだし、レモンタルトはちょうど良いと思うの。他にも何か作ってみますか、」 「……はい」  また昨日みたいに失敗しないだろうかと不安に思いながらも、秋鹿はハルに云われたとおりレモンタルトを作った。一つ一つの行程に、慎重になる。おかげで昨日よりも時間がかかった。些細なことにも注意を払って、これだけ気を配ったのだからきっと大丈夫だと自分に云い聞かせて、オーブンに入れる。  タルトを焼いている間に、今度はロールケーキの生地を作っていく。 「秋鹿はどのくらいケーキが作れるの、」  ハルはクリームを泡立てながら訊ねた。 「まだ十種類くらいです」 「まあ、十種類も作れるの? 素晴らしいわ」  ハルの褒め言葉に、秋鹿ははにかんだ。 「でも、もっとたくさん作れるようになりたいんです。まだまだ覚えることもいっぱいあるし……」  ──もっともっと、たくさん覚えるはずだった。もっともっと、いっぱい教えてもらうはずだった。今はもう、叶わない。秋鹿は胸で呟いた。今はもう、叶わない。仕方のないことだった。  ハルは心の底からの同意を見せて頷いた。 「そうですね。いろんなケーキが作れたら、(たの)しいわね。新しいレシピを覚えると、もっと料理が好きになる。私もまだまだ勉強中です」 「おばあちゃんも?」 「そうですよ。学ぶことに果てはありません。好きなことに果てがないように、ね」
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