3

5/13
前へ
/199ページ
次へ
 柊は今日も制服を着ていた。テーブル席に着くと、水を持ってきたハルに、 「今日のケーキは何ですか、」 「ロールケーキと、レモンタルトと、チーズケーキよ」  柊は秋鹿をちらりと見やった。 「じゃあ、レモンタルトを」  聞き間違いか云い間違いじゃないかと秋鹿は思った。しかしハルが、「はい、レモンタルトね」と、くり返す。昨日、あんなに不味(まず)そうだったのに、今日も頼むなんて。何を考えているのか判らない人だと思った。 「それと、珈琲(コーヒー)をお願いします。アイスで」 「アイス珈琲(コーヒー)ね。判ったわ」  ハルは伝票を書きながら頷き、 「良かったら、ロールケーキも食べる? 今日はお客さんが少ないから、サービスです」 「良いんですか、」 「ええ。柊君、いつも来てくれますから」  じゃあ、いただきますと云った柊の表情は、実に嬉しそうだった。だが秋鹿が自分を眺めているのに気が附くと、たちまち不機嫌そうになる。鞄からあの本を取り出して、読みはじめた。  ハルが珈琲(コーヒー)を淹れ、秋鹿がケーキを盛りつけた。 「秋鹿の盛りつけはとても可愛くて、とても綺麗ですね。ケーキがいちだんと美味しそうに見えるわ」  そうハルが云ってくれるので、これまであまり勉強してこなかった盛りつけを、もっと学ぼうと秋鹿は思った。
/199ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1094人が本棚に入れています
本棚に追加