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ハルは珈琲とケーキを柊の元へ運んでいき、
「どちらも秋鹿が作ったのよ」
と、説明する。そんなこと云わない方が良いんじゃないかしらと、秋鹿はどきどきした。
柊は本を鞄にしまうと、フォークを取り、まずロールケーキを口にした。
「どう、柊君」
ハルがさりげなく訊ねる。
「おいしい……です」
柊は悔しそうに秋鹿を見た。秋鹿は吃驚して面を伏せた。そう、良かったわと、ハルはにこにことしてカウンターに戻ってくる。おいしい、と、云うのは多分嘘じゃないだろう。けれども秋鹿はまだ安心を出来なかった。
柊は続いてレモンタルトを食べた。秋鹿はこっそりとその様子を見つめる。柊は昨日と同じように眉をひそめると、頸を横に振った。ああ、やっぱり、と、秋鹿は思った。二口めのレモンタルトは無かった。柊はロールケーキだけを黙々と食べた。
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