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柊は珈琲を飲み終えると、立ち上がった。
「ハルさん、ごちそうさまでした」
勘定を済ませ、皆の脇を通って店を出ていく。
麗ら彦が云った。
「あんた、そんな風だと此処にいられなくなるわよ」
扉が勁く閉まって、ドアベルがけたたましい音を立てた。
「なあに、可愛くない態度ねえ」
「これだから……ねえ」
厭ねえ、厭ねえ、と、麗ら彦の仲間たちが囁き合う。
「あなたたち、この店では、どんな人も仲良くするのがルールですよ」
ハルが穏やかに、しかし厳しい口調で云う。
「どんな人間も、あやかしも、この店ではみんな同じ仲間ですからね」
「はあい、ごめんなさい」
「ごめんねえ、ハルさん」
麗ら彦たちは大人しく謝った。
どうやら柊は彼らに嫌われているらしい。彼もまたあやかしであるようなのに、どうして麗ら彦たちは柊を嫌うのだろう。秋鹿を受け入れてくれた麗ら彦が、柊に冷たく当たるのが信じられなかった。それに、柊のあの態度……平然としたふりをしていたけれど、指の先が微かにふるえていた。扉が勁く閉まったのは、乱暴にしたからじゃなくて、その所為だろう。
「秋鹿、ロールケーキを三つ、お願いね」
考えごとに耽っていると、ハルに云われて、はっとした。先程のことは無かったように、麗ら彦たちはテーブルに着いて、かしましくお喋りをしている。秋鹿は急いでキッチンに入り、ロールケーキの用意をした。
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