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 ふと、柊のことを憶い出した。 「あの、柊って人……、高校生なの、」  二人はキッチンに入り、食器を洗う。 「そうよ。柊君は此処(ここ)の高校に通っているわ」 「あの人も、あやかし……だよね」 「ええ、そうよ」  ハルは洗ったグラスを秋鹿に渡しながら頷く。秋鹿は布巾(ふきん)でグラスを拭き、籠に入れる。 「人間のふりをして、高校に通っているってこと、」  ハルはほんのわずか間を置いて、 「柊君はね、あやかしと云っても、みんなとはちょっと違うの」 「違う、」 「柊君は、あやかしと人間との間に生まれた子なんですよ」  今ここにいない柊を気遣うように、ハルは云った。重大な秘密を打ち明ける、まさにそんな口ぶりだった。秋鹿も慎重な気持ちになって、訊ねた。 「それは、いけないこと……なの、」  これまで秋鹿が出逢ってきたあやかしたちは、あまりに人間に近かった。風変わりな人間だ、くらいに、実のところ彼らを見ていた。そんな彼らと人間との間に生まれたと云うことが、どのような意味を持つのか。内緒ごとにするほど、悪いことなのだろうか。秋鹿には判らなかった。  ハルは水を止め、手を拭いた。 「私には、判りません。ただ、あやかしの中には、それを快く思わない人もいるみたい」  だから、麗ら彦たちはあんな風に柊に冷たかったのかと、秋鹿は納得した。しかし、柊が悪いことなんて、全然ないのでないかと思った。彼のことはよく識らないけれど、自分の責任でないことで嫌われてしまうのは、おかしいと思った。哀しいと、思った。  夕食後に、ハルと秋鹿は今日作ったケーキを半分ずつして食べた、レモンタルトは、昨日と全く同じだった。ちっとも美味(おい)しくない。けれどロールケーキは、秋鹿自身も美味しいと感じた。  もう、レモンタルトは作らない方が良いのかも識れない。秋鹿は思った。
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