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 同時に光も消え失せて、秋鹿の正面に、真っ白の着物を着た若い男が経っている。あのもの凄い光は、彼の仕業だったのか。男は(けが)れを負った助六と茶漬けの元へ行き、ふたりの様子を確かめるように覗き込んだ。 「ふたりは……、」  秋鹿は自分の姿が見えぬことも忘れて、男に訊ねかけた。「ふたりは大丈夫ですか、」  男はゆっくりと(くび)を巡らせて、 「按ずることはない。私がすっかり治してやろう」  袂から人の形をした紙片を取り出すと、ふうと息を吹きかける。すると紙片は男の姿に化けた。背丈から恰好からまるきり同じである。男に化けた紙片は助六と茶漬けを抱きかかえると、瞬時に何処(どこ)かへ消えてしまった。  呆然とする秋鹿に、男は云った。 「秋鹿……だな。ハル殿の孫と云う」  ハルの知り合いだと判ると、秋鹿はほっとした。どうやらこの男もあやかしらしい。 「はい。真賀田秋鹿です。あの、ありがとうございます。助けてもらって」  頭を下げる。はっはっと、男は笑って、 「九つの()を持つ私にも見えぬ者がいると云うのは、何とも妖しいことだな。そら、」  と、懐から袱紗を取り出すと、中のものを摘んで、宙に向かって放り投げる。適当に投げたようだったのに、上手い具合に秋鹿の方に飛んできて、秋鹿はそれを手のひらで受け取った。男の着物と同じく真っ白な鈴であった。
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