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「お前にやろう。いつでも身につけておいで。大丈夫、その鈴の音は、お前の味方しか聞こえぬ。お前を好いた者だけが、お前の在り処を判ると云う塩梅さ。それに、その鈴には私の霊力も多少込められているからな。ちょっとしたお守りにはなるさ。先刻みたいな悪いものが、襲いかかってこないように」
秋鹿は蜘蛛の紅い睛を憶い出して、身顫いをした。秋鹿が今まで出逢ったあやかしたちとは、まるで違う種族のようだった。それともあれが真実のあやかしの姿で、皆も本当はあんな風におそろしいものなのだろうか。
「あれは一体、何だったんですか。あやかし……ですよね」
男は頷いた。
「そうさ。あれは蜘蛛の眷属のひとつだろう。蜘蛛と云ってもさまざまあるが、いずれも厄介な奴ばかりでな。いや、厄介でないあやかしなど、いないか」
男は自分の云ったことに可笑しがると、
「先程まではあの蜘蛛の瘴気で判らなかったが、お前は佳い薫りがするな」
「はあ……、」
また、云われてしまう。秋鹿自身は全く判らないのに、こう何度も云われると、ちょっぴり厭な感じがした。
その秋鹿の途惑いを察したのか、
「それは人の子には判らんよ。あやかしが好く薫りだな」
「あやかしが?」
どうりであやかしにばかり云われる訳である。
「そうさ。あまやかで、妖しい薫りさ」
男は形の佳い唇で微笑んだ。長い白銀の前髪から覗く睛は、深い蒼をしていた。
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