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「リヒト…は、ドイツ語で『光』って…」 私の言葉に篠原さんが嬉しそうに笑った。 その顔を見てあの時の曖昧な記憶だった青年の顔が篠原さんに変わる。 「『俺の名前、理人って言うんです。ドイツ語で光』」 篠原さんが当時のセリフを言ってみせると、その時の光景がそこだけはっきりと頭に浮かんだ。 「『素敵な名前ですね』」 私の返しに篠原さんは満足そうに笑って、チュッとキスを落とした。 「俺、いきなり自己紹介とかしちゃって、めっちゃ不審者だったのに、その返しでしょ。比奈さん、髪の毛が風でなびくの押さえててさ、その仕草とかすっげ可愛かったし、俺、一発で惚れてた」 「惚れて…え?」 篠原さんはニコッと笑うと「そ」とひとことだけ言った。 「まぁ、惚れた瞬間に失恋決定だし。何しろ比奈さんには鈴木先輩がいましたから」 苦笑するように言い、私をぎゅうっと抱き寄せる。 「それからずっと俺の中には比奈さんがいたんだよ」 低く、優しい声が私の胸の中をこだまする。 頭を篠原さんの肩に乗せ、身体を預けると、篠原さんが思い出したように笑った。 「それにさ、比奈さん忘れているようだけど、俺と鈴木先輩、大学同じ医局だよ」 「あっ!」 そう言えば二人とも救急科だった…。
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