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「話したことはないけど、鈴木先輩の噂は耳にしてたから。比奈さんとの付き合いも長いとは思っていたけど、結婚したとは聞いていなかったし…比奈さんとは偶然にもマンション、一緒だったから…俺にもチャンスあるかなって、狙ってた」
そして起きたあの事件が自分にとってはまたとない好機となったと話した。
「まさか、婚約していたとは知らなかったけどね」
そう、呟いて少し俯く。
僅か数週間の婚約期間が篠原さんを傷つけているのかと思うと、思わず「ごめんなさい」と謝ってしまった。
そんな私に、篠原さんは想像していた表情とは違い、にっこりと笑いながら「なんで?」と言った。
「間に合ってよかった。だって比奈さんは俺のそばにいてくれる。これからもずっと」
そう言いながら抱き寄せた私を更にきつく、囲うように私を腕の中にしまう。
「そうでしょ?」
ほんの少し前に私が篠原さんに言った『一緒にいたい、ずっとそばにいたい』という言葉を、もう一度確かめるように篠原さんが口にした。その言葉は少し震えていた。
私は篠原さんをしっかりと抱き返す。
篠原さんも不安だったんだ…。
少しでも篠原さんが安心してくれるように私は篠原さんの腕の中で何度も頷いた。
「うん、ずっといる。いさせてください」
そんな風に返した私の声も震えていた。
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