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篠原さんの腕の拘束が和らぎ、目線が同じになる。 自然と緩む口元に、そっと触れるだけの口づけが落とされる。 「お腹空いたし、比奈さんの手料理早く食べたいけど…」 そう言って私の手を取ると、その指先にキスをした。 「比奈さんで満たされてもいいかな?」 そんな、蕩けるような顔で。腰が砕けるような甘い声で。 そんなセリフに首が横に振れるわけない。 繋がれたままの手を、そっと持ち上げ、篠原さんがしてくれたように篠原さんの指先にキスを落とす。 「篠原さんに満たされたいです」 私の言葉が終わるか終らないかのうちに、私は抱え上げられていた――。 満たされた心は、身体をも歓喜へと変える。 満たされた身体は、心にも幸福をもたらす。 それが循環しあっていればずっと幸せ…。 少なくとも、この時の私は幸せという言葉で満ち足りていたんだ――。
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