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「ううん、大丈夫」 私は首を横に振りつつ篠原さんに笑顔を向ける。 昨日捨てた命を拾ってもらった。 新しい自分に生まれ変わらせてくれた。 私は昨日までの、自分に自信のない弱い人間じゃない。強く、なれたはずだ。 篠原さんが、そうさせてくれた。 ここでダラダラと甘えてしまったら元に戻ってしまう…。 「大丈夫、一緒に出る」 「でも…」 心配そうな篠原さんを安心させるためにもう一度「大丈夫」と言葉を重ねる。 それ以上篠原さんは何も言わなかった。 お互いに無言で身支度を整える。でも不思議と居心地の悪いものではなかった。 靴を履くと示し合わせたように私たちは抱き合った。すぐさまに唇に降りてくる熱い感触に夢中で応じた。貪り尽くすような口づけは身の内に熟んだ熱を生じさせる。 腰を引き寄せられお互いの昂りを知る。それだけで私たちは繋がっていた。 でも、手から水がこぼれ落ちるような不安にも似た感覚が全身に染み渡り、必死にしがみつきながら、今後、私たちが会うことはもうないのだと、そう思った。 会ってはいけないのだ、と。 ゆっくりと体が離れる。 あがった息、潤んだ瞳、上気した頬…。 私を――救ってくれた人。 「あなたの命は俺のものだから。勝手しないで」 私を捉え縛り付ける言葉。 「うん」 命を捨てた日――それは久世比奈という人間が生まれ変わった日となった。
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