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「かわいー いちばん ぷれぜんと」
「…………」
しかし兄の台詞を全く聞いていないのか、美那は相変わらずにこにこしながら、ぬいぐるみを姉に向かって差し出す。
「ええと、自分が持ってる物でこれが一番可愛いから、これを姉さんにあげるの?」
「あげる」
笑顔のまま美久に頷いてみせた美那を見て、美樹が尋ねた。
「美那、せっかく和真から貰ったのに良いの?」
「ねぇね おせわさま」
真顔でそんな事を言われた美樹は、思わず笑いながらそれを受け取った。
「そう……。それじゃあ少し早いけど、誕生日のプレゼントに貰うわね。ありがとう」
「うん」
にこにこと今度は姉妹で和んでいると、それを眺めた和真がしみじみとした口調で言い出した。
「そうか……。美那、お前は本当に優しくて良い子だな。俺には弟が二人いるが、どちらも隙あらば俺のおやつや玩具をかすめ取ろうとする奴ばかりだったぞ」
「大方、下僕が弟の分も独り占めしてたんじゃないの?」
「当然だ。世の中弱肉強食。兄弟は最小単位の社会の縮図だからな」
「僕……、姉さんの弟で良かったと、初めて思ったかも……。少なくとも面倒見は良いし、おやつを独り占めしたりはしないし」
からかうつもりで口を挟んだ美久が、大真面目に断言された内容を聞いて、うんざりした顔で呟く。そんな彼を無視して、和真は美那を見下ろしながら声をかけた。
「お前のような優しい子が将来の妹で、俺は嬉しいぞ」
「うれしい?」
不思議そうに見上げてきた美那に、和真が満面の笑みで言葉を重ねる。
「ああ、実家に弟はいても妹はいないし、弟の嫁なんか顔も知らん。お前は俺の、ただ一人の自慢で可愛い妹だぞ?」
「じまん? ひとり?」
「ああ」
「かずにぃー すきー!」
美那が嬉しそうにそう叫んで両手を伸ばしてきた為、和真は笑って抱き上げてやった。
「よしよし、それじゃあ、さっきプレゼントした奴の代わりに、俺が今度特大のぬいぐるみを買ってやるからな」
「ありがとー」
二人でそんなやり取りを笑顔で交わしていると、少し前から微妙に面白く無さそうな顔付きをしていた美樹が、踵を返して歩き出した。
「……美久、武道場に行くわよ」
「うん、じゃあ下僕。美那を宜しく」
「ああ、行ってこい」
美那を抱き上げたまま、素っ気なく二人を見送った和真だったが、ここで峰岸が恐る恐る声をかけてきた。
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