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「あの……、部長補佐。拙いんじゃ無いでしょうか?」
「うん? 何がだ?」
「美樹様の誕生日に、プレゼントとかを準備していますか?」
「はぁ? そんな事、するわけ無いだろうが。あいつの誕生日だって知らなかったのに」
本気で呆れかえった顔になった和真だったが、峰岸は大真面目だった。
「それはともかく、美樹様の目の前で、露骨に美那様を誉めるのは拙いのでは……」
「どうしてだ。こんなに小さいのに、迷わず一番可愛いのを姉に譲るなんて、感動モノだろうが。誉めて何が悪い」
「いえ、悪くはありませんが……」
「それなら黙っていろ。美那。今日は何をする?」
「おえかき」
「そうか。じゃあ今、好きに描いて良い紙を出してやるからな」
「うん!」
それきり峰岸を無視して美那の世話を始めた和真を見て、彼の部下達は例によって例の如く、小声で囁き合う。
「部長補佐……。最近益々、所帯じみてきた気が……」
「それよりも、誰か美樹様へのフォローをしなくて良いのか?」
「誰が何をどうするんだよ?」
「…………」
そして顔を見合わせて黙り込んだ彼らは、自分達にとばっちりが来ない事を切実に願った。
桜査警公社で、そんな事があってから三日後。自宅で美樹が廊下を歩いていると、背後から声をかけられた。
「ねぇね?」
「何? 美那」
「ぷんすこ?」
「はい?」
足を止めて振り返ったものの、いきなり妹に意味不明な事を言われて、本気で戸惑った。すると美那が軽く首を傾げながら、尚も尋ねてくる。
「つんつん?」
「別に何も、怒ったりはしていないわよ?」
「すねすね?」
今度は逆方向に軽く首を傾げながら言われた内容に、美樹は怒りを露わにしながら低い声で尋ねた。
「……誰が言ったの、そんな事?」
「にぃに」
「美久、出て来なさい」
美那は素直に即答し、美樹はすかさず周囲に向かって呼びかけた。すると廊下に面した襖の一つが開き、溜め息を吐きながら美久が姿を見せる。
「美那……、あっさりバラしたら駄目だから……」
「だめ?」
「それで? あんたは何を言いたいわけ?」
ここでキョトンとした美那から姉に視線を移した美久は、苛立たしげに文句を言い出した。
「あのさぁ……、取り敢えず外面取り繕ってるけど、こっそり拗ねて僕に八つ当たりしないで欲しいんだけど」
「誰が、誰に八つ当たりしてるって言うのよ?」
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