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「姉さんが僕にしてるに決まってるだろ? 幾ら下僕が姉さんを蔑ろにしたからと言って、拗ねないで欲しいんだよね」
「はぁ!? 頭が腐ってるような事、言うんじゃないわよ! いつ私が蔑ろにされて、拗ねてるのよ!」
いきなり姉が怒り出し、兄の服を掴んで廊下の壁に押し付けて恫喝したのを目の当たりにした美那は、目を丸くして呟いた。
「ぷんすこ……」
その声を耳にした美樹が振り返り、彼女に向かって冷静に言い付ける。
「美那。呼ぶまで少し離れていなさい」
「おじゃまさま」
「あ、ちょっと待って、美那!」
姉に逆らわず、ぺこりと一礼して歩き出した美那を美久は慌てて引き止めようとしたが、美樹はそんな事を許さないまま凄んだ。
「それで? まさかあんた、私が和真に褒められた美那に嫉妬した挙句に、誕生日にプレゼントなんか用意する気配もないあいつの無神経さに腹を立てて、あんたをネチネチ陰で精神攻撃しているとか、ふざけた事をほざくつもりじゃないわよね?」
「……これまでの事実関係ではそうだし、現時点から物理的攻撃も加わったね」
懇切丁寧に説明されて、美久は完全に開き直った。
「ぶっちゃけ言わせて貰うけどさ、姉さんが下僕に一言『こんな小さい美那までくれたんだから、あんたも誕生日プレゼントをよこせ』と言えば済む話だろ?」
「…………」
それを聞いた途端、美樹は無言で眉根を寄せた。
「何? 美那繋がりで、でっかいぬいぐるみが贈られそうだから嫌だって?」
すると美樹は嫌そうに更に顔を歪めながら、美久を掴んでいた手を離しながら悪態を吐いた。
「五月蠅いわよ。あんた口数が多いんだから、ちょっと黙ってなさい」
「悪いね。僕、政治家志望だから。政治家なんて喋ってなんぼだろ?」
「あんたに票を入れるのなんて、愚民もいいとこよ」
忌々しげに吐き捨ててそのまま歩き去る美樹を見ながら、美久は溜め息を吐いた。
「はぁ……、実の姉ながらおっかないなぁ……。本当に勘弁して欲しいんだけど」
「にぃに だいじょーぶ?」
そこでぴょこんと廊下の曲がり角から顔を出した美那を見て、美久は思わず笑ってしまった。
「美那はおっとりしているように見えて、意外にちゃっかりしてるよね」
「ちゃっかり?」
不思議そうに尋ね返した美那に、美久が苦笑しながら頼み込む。
「美那。ちょっとにぃにを助けてくれないかな?」
「うん おたすけ」
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