美樹十一歳、覇道街道一直線

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 どうやらすぐ近くで美久が様子を窺っていたらしく、電話越しに慌てた感じの彼の声が聞こえてきた為、和真は本気で笑ってしまった。 「それなら美久へのお仕置きは、お前に任せるからな。他に何か用事はあるのか?」 「ううん おじゃまさま」 「それなら切るぞ」 「うん ばいばい」  そこで通話を終わらせて、元通りスマホをしまって歩き出した和真は、忌々しげに呟いた。 「全く美久の奴、油断も隙も無いな。しかも美那を使って俺を動かそうなんて、百年早いぞ」  そして続けて、引き受けてしまった事について渋面になりながら、考えを巡らせる。 「しかし、あいつへの誕生日プレゼント? 何を渡せば良いやら……」  真剣に考え込みながら帰社した和真は、自分の机に戻ってからも、そのまま悩み続けた。 「ふぅん……、いや、しかしな……」 「小野塚、この報告書の内容だが……」 「はい、部長。何かご不審な点でもありましたか?」  何やらブツブツと呟いている和真の背後から、報告書片手に近付いた吉川は、椅子に座ったまま軽く振り返った彼に問いかけた。 「報告書もそうだが……、勤務中に何を検索しているんだ?」  デスクトップ型のディスプレイに映し出されている、業務とは微塵も関係無さそうな品々を見て、吉川は叱責する以前に本気で呆れたが、対する和真もすこぶる真顔で返した。 「今時の十歳前後の女の子向けのプレゼントを検索してみましたが、あいつに似合わなさ過ぎて呆れ果てていたところです。すっかり時間を無駄にしました」 「……問題点は、そこでは無い気がするが」 「ところで部長。部長にはお嬢さんがいらした筈ですし、娘さんが今のあいつの年齢頃には、どんな誕生日プレゼントを贈っていたか、覚えていらっしゃいますか?」  いきなり話題を変えられた吉川は、当惑しながら和真に詫びた。 「いや……、すまん。そういう関係は、全て妻に任せていたし、そもそも普通一般の女の子に対するプレゼントをリサーチしても、美樹様は一笑に付すだけだと思うが……」 「そうですね。取り敢えず聞いてみただけですので、気にしないで下さい」 「そうか……」  相変わらず上司に対しても傍若無人な和真に、吉川はそれ以上何も言わなかった。そこで和真が、思い出したように尋ねる。 「ところで部長。私に何か話があったのではありませんか?」 「いや、もう良い。邪魔したな」 「分かりました」
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