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そんなやり取りを耳にしてしまった彼らの部下達は、顔を寄せてこそこそと囁き合った。
「おい、聞いたか?」
「ああ。部長補佐が、美樹様へ誕生日プレゼントを贈るつもりになっくれたのは良いが、下手な物を贈ったりしたら血を見るかもしれんぞ」
「だが、何か良い考えがあるか?」
「何と言っても、あの美樹様だろう? ……駄目だ。全然思い付かない」
そんな部下達の囁き声を聞き流しながら、和真は本来の業務の合間に考え込んでいた。
(全く面倒な……。だが適当に贈って『あんたのセンスはこの程度か』と、美樹と美久にせせら笑われるのはムカつくしな。さて、どうしたものか……。あいつの事だから、年相応の物なんか歯牙にもかけんだろうし。かと言って、チャラチャラしたアクセサリーの類も論外……。やはりここは、実用性重視だろうな)
そんな風にある程度の方向性を決めた和真は、直ちに幾つかのサイトを検索し、色々と即決して発注も済ませてから、「よし、話をつけてくるか」と呟きながら立ち上がった。
「あ、あの……、部長補佐。どちらに?」
そして無言で歩き出した彼に、近くの席の部下が声をかけると、和真は素っ気なく言葉を返した。
「野暮用だ。三十分で戻る。提出予定の報告書は、机に置いておけ」
「……了解しました」
「何なんだ?」
「さあ……」
そんな彼を周りの者は、揃って怪訝な顔で見送ったのだった。
それから一週間程経過したある日、いつも通り武道場での訓練前に、美樹が美那を和真の所に預けに来た。
「和真、悪いけど今日も、美那の世話を宜しくね」
「ああ、それは構わないが、ちょっと付き合え。まだ訓練の時間には余裕があるだろう」
「それはそうだけど、一体何よ?」
その問いかけに和真は薄笑いだけで答えず、美那を抱き上げてさっさと歩き出した。
「さあ、美那。散歩するぞ?」
「うん! おさんぽ!」
「あ、和真! ちょっと待ちなさい!」
「何なんだよ、一体」
文句を言いながら美樹と美久が後を追うと、和真は武道場と同じフロアにあるフィットネスジムに三人を連れて行った。
「きかい?」
「ジム? どうしてここに来たのよ」
靴を脱いで室内に入った三人が、キョロキョロと興味深げに周りを見回していると、和真が手招きする。
「いいから、ちょっとこっちに来い」
「何なの?」
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