美樹十一歳、覇道街道一直線

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 思わず和真が遠い目をした所で、美那が一際高い声を上げた。 「ねぇね きれー! かわいー!」  それに美樹が、笑いながら応じる。 「そうね。美那も大きくなったら使いたい?」 「うん!」 「ああ、ついでに美那の分も作ったぞ?」 「え?」 「かずにぃ?」  不思議そうな顔になった姉妹の前に、和真は足元にあったダンボール箱から、小さな黒いグローブを取り出した。 「ほら、こっちはオモチャの、柔らかい綿入りだがな。模様はお揃いだ」 「ねぇね おそろい? すごーい!」 「良かったわね、美那」 「ありがと かずにぃ!」 「ああ。今度それで、パンチの仕方を教えてやるからな」 「うん!」 「……こんな小さな子に、何を教える気だよ?」  大喜びで黒いグローブを受け取ってはしゃいでいる美那を見て、美久が本気で頭を抱えていると、その横で美樹が薄く笑いながら和真に声をかけた。 「和真」 「うん? どうした」 「なかなか良い趣味をしてるじゃない。ちょっと見直したわ」 「そりゃあ、伊達にお前より年は取ってないからな?」 「それじゃあこれは、私専用よ? 他の人間に触らせるんじゃ無いわよ?」 「分かってる。安心しろ」  そう言って不敵な笑みを交わしている二人を、少し離れた所から眺めていたインストラクター二人は、恐怖に慄きながら囁き合っていた。  「良いのか、あれで……」 「本人が納得していますから、良いのでは?」  そんな周囲の目など物ともせず、美樹はやる気満々で宣言した。 「そうと決まれば、叩き初めよ!! まだ訓練開始までは時間があるしね!」 「……早速やるのか?」 「勿論よ。和真、付けるのを手伝って」 「……ああ」  色々諦めた和真は美樹のグローブ装着を手伝いながら、訓練開始を少し遅らせる様に武道場に伝える事を、インストラクターに言い付けた。そして準備が整うと、美樹が新品のサンドバッグに向かって、勢い良くパンチを繰り出す。 「それじゃあ、行くわよ! くたばれ! くそ親父!!」 「きゃうぅー! ねぇね すごーい!」 「とっとと引退しやがれ、ロートル野郎がぁぁっ!!」 「うきゃあぁーっ! ろーとるー!」  そんな風に大盛り上がりの姉妹を眺めながら、美久と和真は乾いた笑いを漏らした。 「父さん……、まだ四十代前半なんだけどな……」 「社長がロートルなら、日本国民の半数以上が高齢者だな。もの凄い、超高齢化社会だ」
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