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「う~ん、やっぱりこれ、問題と言えば、問題かなぁ……」
日曜に、自分の机で唸り声をあげながら何かを見ていた姉に、背後から美久と美那が声をかけた。
「姉さん。らしくなく、何を考え込んでるわけ?」
「ねぇね、あそぼ!」
その声に美樹は瞬時に気持ちを切り替え、笑顔で椅子ごと振り返る。
「うん、そうね。皆で遊ぼうか。美那、せっかくだから、今日は新しい遊びを教えてあげる」
「うん! あたらしいの!」
「新しい遊びって……、何をするわけ?」
「大人の遊びよ。あんたにもやってもらうわよ?」
「はぁ?」
おかしそうに笑った美樹に美久は当惑したが、それから姉の説明を聞いて、本気で頭を抱える羽目になった。
藤宮家でそんな事があってから、約二か月後。
その日は何故か午前中から美樹が桜査警公社に現れ、自分の机に陣取っていた。
「おい、美樹……」
「何?」
「どうして今日は、朝からここにいるんだ?」
「今日は開校記念日で、学校が休みなのよ。夕方まで特に何も用事は無いわ」
「ここに丸一日居る気かよ……」
隣の席にいる彼女に、和真はうんざりとした視線を向けたが、その手元のかなり分量がある書類を目にして、思わず尋ねた。
「それはともかく、ここに来るなり、何を見ているんだ?」
「ここの最新の財務諸表よ」
「はぁ?」
意表を衝かれた和真が戸惑った声を上げると、美樹が少々不満げな視線を向けながら説明してくる。
「知らないの? 貸借対照表と損益計算書とキャッシュフロー計算書の事よ。公にもなっている、経営指標じゃない」
「それ位は知っているが、どうしてそれを見ているのかと聞いているんだ。ここの経営状態に不満でもあるのか?」
「いいえ、無いわ。公社設立以来、ずっと黒字経営だしね。本当に奇跡的よ」
「それならどうしてだ」
「相変わらず黒字だけど……。相変わらずなのよねぇ……」
「何だそれは。全然意味が分からんぞ」
独り言の様にどこか不満げに呟いた美樹に、少々いらつきながら和真が悪態を吐く。しかしそれを聞いていないかのように、美樹は自分自身に言い聞かせながら、資料を閉じて勢い良く立ち上がった。
「やっぱりここは一つ、景気付けにどでかい花火……、違うわね。爆竹の束でも投げ込むか……。うん、そうしよう。決~めたっと。幸い仕込みはバッチリだしね!」
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