美樹十一歳、適材適所を黙考する

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 そんな些か物騒な事を呟いたと思ったら、スタスタとどこかへ向かって歩き出した彼女の背中に向かって、和真は焦って問いかけた。 「おい、お前景気付けって、どこに何を!」 「取り敢えず、金田さんに相談してくるわ」 「だからちょっと待て! お前、社内で何をやらかす気だ!」  しかし美樹は前を向いたまま片手を軽く振って歩き去り、それを見送った和真は「もう俺は知らんぞ」と頭を抱え、周囲の者達は何事かと密かに戦慄していた。 「金田さん、ちょっと相談があるんだけど」  軽くノックをしただけで副社長室に押し入った美樹を、その部屋の主である金田は、机に座ったまま平然と出迎えた。 「はい、美樹様。何でしょうか?」 「ちょっと一億ほど使わせてくれない? 一年以内に、きっちり倍にして返すわ」  その唐突な申し出に、傍らに居た彼の秘書は無言のまま目を見開いたが、金田は面白そうに笑いながら応じる。 「それはそれは……、また随分大きく出られましたね」 「大金を借りるわけだし、一応詳しい説明をしておきたいんだけど、今は時間があるかしら?」 「お伺いしましょう」  即座に手元の仕事を中断した金田は話を聞く態勢になり、それから少しの間、二人の間で密談がかわされた。  それから更に半月ほど経過したある日、信用調査部門に美久と美那が連れ立ってやって来た。 「こんにちは!」 「お邪魔します」 「おう、来たな、美那」  いつも通り、上二人の訓練中美那を預かろうとして、和真は美樹の不在を不審に思った。 「ところで美久、美樹はどうした?」 「ちょっと野暮用。訓練開始時間までには、武道場に行くよ」 「うん、わるだくみちゅー!」 「……そうか。最近美那の語彙が、顔を会わせる度に劇的に増えているが、姉と兄からろくでもない言葉しか教わっていない気がするぞ」  兄に続いて、元気に笑顔で答えた美那を見て、和真は深い溜め息を吐いたが、ここで美久が周囲を見渡しながら問いを発した。 「そんな事より、峰岸さんって誰の事?」 「はっ、はい! 何でございましょうか!?」  そこで反射的に立ち上がった峰岸に向かって、美久がこの場の誰もが予想し得なかった事を言い出した。 「ちょっとやって欲しい事があるんだけど。美那の代わりに、株取引をして欲しいんだよね。姉さんの手下だし、名義貸し位は何でも無いだろう?」 「は、はいぃ?」
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