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そんな些か物騒な事を呟いたと思ったら、スタスタとどこかへ向かって歩き出した彼女の背中に向かって、和真は焦って問いかけた。
「おい、お前景気付けって、どこに何を!」
「取り敢えず、金田さんに相談してくるわ」
「だからちょっと待て! お前、社内で何をやらかす気だ!」
しかし美樹は前を向いたまま片手を軽く振って歩き去り、それを見送った和真は「もう俺は知らんぞ」と頭を抱え、周囲の者達は何事かと密かに戦慄していた。
「金田さん、ちょっと相談があるんだけど」
軽くノックをしただけで副社長室に押し入った美樹を、その部屋の主である金田は、机に座ったまま平然と出迎えた。
「はい、美樹様。何でしょうか?」
「ちょっと一億ほど使わせてくれない? 一年以内に、きっちり倍にして返すわ」
その唐突な申し出に、傍らに居た彼の秘書は無言のまま目を見開いたが、金田は面白そうに笑いながら応じる。
「それはそれは……、また随分大きく出られましたね」
「大金を借りるわけだし、一応詳しい説明をしておきたいんだけど、今は時間があるかしら?」
「お伺いしましょう」
即座に手元の仕事を中断した金田は話を聞く態勢になり、それから少しの間、二人の間で密談がかわされた。
それから更に半月ほど経過したある日、信用調査部門に美久と美那が連れ立ってやって来た。
「こんにちは!」
「お邪魔します」
「おう、来たな、美那」
いつも通り、上二人の訓練中美那を預かろうとして、和真は美樹の不在を不審に思った。
「ところで美久、美樹はどうした?」
「ちょっと野暮用。訓練開始時間までには、武道場に行くよ」
「うん、わるだくみちゅー!」
「……そうか。最近美那の語彙が、顔を会わせる度に劇的に増えているが、姉と兄からろくでもない言葉しか教わっていない気がするぞ」
兄に続いて、元気に笑顔で答えた美那を見て、和真は深い溜め息を吐いたが、ここで美久が周囲を見渡しながら問いを発した。
「そんな事より、峰岸さんって誰の事?」
「はっ、はい! 何でございましょうか!?」
そこで反射的に立ち上がった峰岸に向かって、美久がこの場の誰もが予想し得なかった事を言い出した。
「ちょっとやって欲しい事があるんだけど。美那の代わりに、株取引をして欲しいんだよね。姉さんの手下だし、名義貸し位は何でも無いだろう?」
「は、はいぃ?」
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