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美子は恒例になっている桜査警公社の半月毎の訪問を、美樹が幼稚園入園後は、なるべく土日や休園日に行う事にしていた。それは加積邸に美樹を連れて行く事に関して、秀明が未だに良い顔をしていない為に、美樹と会うのを楽しみにしている加積達への配慮だった。
「美子さん、お腹が随分大きくなったわね」
「ご苦労様。そろそろ書類は自宅の方に、随時運ばせる方が良いかな?」
第二子を妊娠中で、既に後期に入っている美子を気遣って声をかけてきた加積達に、美子は恐縮気味に頭を下げた。
「そうですね。そろそろそうしていただけると、ありがたいです。公社の方には、お手数おかけしますが」
「遠慮する事は無い。美樹ちゃんが生まれる時にもそうしたからな」
「そうよ。無理をしないでね」
「ありがとうございます」
何故かこの間、いつもなら顔を合わせるなり元気に挨拶してくる美樹は、美子の隣で黙りこくっており、その異常さに加積達は気が付いていたものの、美子がそれに触れない為、話題には出さなかった。
「じゃあ今日も、美樹ちゃんは私達が見ているわね」
「宜しくお願いします」
しかし美子から美樹を引き取って場所を 移動した直後に、加積が美樹に尋ねた。
「どうした、美樹ちゃん。今日は随分、ご機嫌斜めだな」
「よしのちゃん、けっこんしたの」
「ほう? 祝い事なら普通はめでたいが」
ブスッとしながら答えた美樹に、加積は意外そうな顔になり、桜も早速突っ込みを入れた。
「『よしのちゃん』って誰の事かしら?」
「よしえちゃん、よしみちゃん、よしのちゃん、よしゆきちゃん」
「ああ、なるほど。美実さんのすぐ下の妹さんの事だな。五人姉妹の筈だし」
「可愛がってくれた叔母さんが結婚しちゃって、寂しいのね?」
美樹が上から順に叔母達の名前を口にした為、加積達は納得したが、美樹は逆に猛烈に怒り出した。
「ちがうの! あいつ、やなやつ! ぜったいわるいひとだよ!? よしのちゃん、だまされてる!」
その癇癪ぶりに夫婦揃って呆気に取られ、しかし疑問に思いながら美樹に尋ねた。
「あらまあ……」
「美樹ちゃんがそこまで断言する位だから、表を取り繕ってもそれなりに裏がある男だとは思うが……。あの男と美子さんが、そうそう丸め込まれるとは思えんが?」
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