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「パパとおじーちゃん、いまかいしゃたいへん。ママはあかちゃんおなかにいて、ぐあいよくないし」
少々気落ちした風情で美樹が訴えた内容を聞いて、加積達は顔を見合わせて頷く。
「そう言えば、そうだったわねぇ……」
「旭日食品が直接関わっていたわけではないが、子会社の食品偽装事件が大々的に報道されているからな。あの男は確か取締役の肩書き付きの資材統括本部長だった筈だし、社長の婿の立場としても、内部外部への対応で、未だにきりきり舞いをしているか」
「それに加えて、最近、公社にちょっかいを出してきた馬鹿がいたものね。殆どの対応は金田達がしたにしても、細かい指示はあの男が出していたと思うし」
「義妹の結婚相手にまで、構っている暇は無かったか。タイミングが悪かったな」
「でも他のご家族は、反対しなかったの?」
納得しかねる顔付きで桜が尋ねると、美樹が渋面になって説明した。
「よしゆきちゃん『なんかうさんくさい。しゅみわるい。やめたほうがいい』っていったら、よしのちゃんおこってけんかして、いえでちゃって、つぎのひ、こんいんとどけ、だしちゃった」
それを聞いた加積は、彼らしくなく遠い目をしてしまった。
「そうか……。随分思い切りが良いな。さすが美子さんの妹さんだ」
「あなた。しみじみ感心している場合じゃないわ。変な男が美樹ちゃんの親族になったかもしれないのよ?」
「それもそうだな」
桜が夫を窘めたが、その前で美樹が憤然として叫んだ。
「うもーっ! ほんとうに、よしゆきちゃんったら! あんなふうにいったら、ぜったいよしのちゃんおこっちゃうよ! よしえちゃんとよしみちゃん、いそがしくて、うちきてくれないし!」
そして足を踏み鳴らしながら涙目で訴えた美樹に向かって、加積が穏やかに声をかけた。
「美樹ちゃん。その男が、そんなに気に入らないのか?」
「だいっきらい!!」
その即答っぷりに、加積の表情が苦笑いになる。
「それは単なる、美樹ちゃんの好き嫌いではないのかな?」
「きらいだけど、もっともっとわるいやつ! よしのちゃんわからなくても、よしき、わかるもん!」
「そうか。それならそんな男は、美樹ちゃんの周りから排除しないといけないなぁ……」
力一杯主張した美樹を見て、加積は穏やかな笑みを消し去り、徐々に凄みを増した表情になる。しかし美樹はそんな彼を、恐れ気も無く見上げて尋ねた。
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