0人が本棚に入れています
本棚に追加
やがて二人は、開寧洞というところに辿り着いた。葦が生い重なる先に小さな草ぶきの家が見えた。そこが娘の家のようだった。娘は梁青年の手を引いて、葦の原に分け入り、草ぶきの家へと向かった。
「さあ着きました、中に入りましょう。」
梁青年が案内された部屋には、既に酒肴の膳が用意され、奥には寝具が敷かれていた。料理は万福寺の時と同じものだった。
梁青年は、この葦原の中の草屋で三日の間、娘とこれまで味わったことのない夢のような日々を過ごした。彼は、このままずっと娘と一緒に暮らすことを望んだが、娘は四日目に次のように言った。
「ここでの三日は俗世の三年に相当します。あなたは、もう戻られた方がいいでしょう。」
思っても見なかった言葉に梁青年は愕然とした。娘と居られるのなら俗世など捨てても構わないのに。
「どうして、そんなことを……。私のことが嫌になったのか?」
梁青年の問いに娘は頭(かぶり)を振った。
「そうではありません。あなたは、まだ、こちらの人ではないので、本来ならば、ここには留まれないのです。ただ、私たちには縁がありましたので、こうして一緒に過ごすことが出来たのです。それ故、お別れしましても、すぐにまたお逢いできるでしょう。取り敢えず、今はお戻り下さいませ。」
こう娘に説得させられた梁青年は、俗世に帰ることを承諾した。
「お別れにお友だちを呼んで宴を開きたいのですが、よろしいかしら?」
「構わないよ。」
梁青年が快諾すると、娘はさっそく侍女に友人たちを呼びに行かせた。その間に娘は宴席を整えた。
間もなく外から賑やかな話し声が聞こえてきた。
「お連れいたしました。」
侍女の言葉に、娘は
「入って頂いて。」
と、友人たちに部屋に入ってもらった。
部屋の戸が開くと、そこには四人の美しい娘の姿があった。服装や髪型から見て、いずれも相当の家柄の子女のようである。
「まあ、こちらが貴女の夫君?」
「素敵な方じゃない!」
「万福寺って寂びれているけど霊験はあらたかなのね。」
「私も今度行ってみようかしら。」
娘たちが梁青年の品定めを始めたので、当人は戸惑ってしまった。その有様を見た娘は
「皆様、お静かになさって。旦那さまがびっくりなさっているわ。」
と牽制した。そして梁青年には次のように言い訳した。
「驚かれたでしょう。ここは俗世とは違うことがいろいろあるのですよ」
最初のコメントを投稿しよう!