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「こめかみ目立たなくなったね」
「ああ、十円ハゲ?うん」
小吉はこの短期結婚・離婚騒動の一番の被害者だ。突然母が再婚し、突然湧いた妹に、一生懸命気を遣って接してくれる。当時受験生だったのにだ。
でも、受験まではうまく切り抜けたものの、僕の父親に振り回され、か細い神経を病ませてしまった。僕の父が普通の人間だったらこんな事にはならなかったのに。
「ごめん、馬鹿父のせいで」
「僕の父者でもあるよ」
そうだった。忘れていた。でも父だからといって息子を自由にして良いなんて道理はない。
「大変だったけど、また海外には行きたいとは思うよ」
駄父へのフォローなんていらないのに。
役立たずだった娘の僕を日本に放置して、父は結婚してから半年余り、小吉をあらゆる国へと連れ回していた。しかも学校には体験学習だのなんだのと言って、公休にさせてしまう徹底ぶりにはため息が出た。息子の方が可愛いのか。うん、僕は確かに可愛げという要素を一切持っていない自信があるから仕方ない。
そして、小吉は度重なる重労働付きの海外行脚の後に倒れ、出席日数に加えて単位不足で、僕と同じ学年になってしまった。
だけどその時は、小吉と三年間高校に通えるのは、正直嬉しいと思ってしまった。
けど、こんな気持になっている自分が嫌いだ。自己中心的な父の血が自分に流れている事を思い知ってしまう。
「…行かないでって、僕がお願いしたらどうする?」
「僕?」
まずい。脳内人格が表層に現れてしまった。
「僕なんて言ってないよ?どうなの?」
恥ずかしい。流して欲しい。
「頼まれなくても行かないよ。さすがにキョロ子と一緒に卒業したいよ」
至近距離で顔を見ていると、小吉がまずったという顔をしたのが分かったけど、気付かないふりをしよう。
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