第一話 Division of Property

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 僕が通う田舎にあるまじき莫大な生徒数を誇る県立高校は、一人になれる空間というものに乏しい。  そこでありとあらゆる場所を探し回り、やっと見つけ出した。  四階建ての大きな体育館は、謎に満ちた空間を沢山含有して建っているんだという、我が妄想は間違っていなかった。  普段、殆どの生徒が立ち入らないというか、見たことすら無いだろう貨物用エレベータがある廊下の更に奥。まるで打ち捨てられたかのような空間が広がっていた。いや、広がっているという表現は間違っているか。  そこはコンクリートで囲まれた階段室という空間で、かの有名な緑に光るピクトさんすら、その輝きを失っている程に忘れられていた空間だった。階段の灯りは辛うじて点灯する。  その階段の三階と四階の踊り場に、人の背の半分程度しかない金属製の扉を見つけたのは先週の事だった。  そこは完全に忘れ去られた、四帖くらいの倉庫だった。もちろん階段の真下なので、天井はその角度のままになっていて、少々低めな僕の背でも、部屋の中央より先では頭をぶつけてしまう。  中はボロいパイプ椅子や机、それに風化しそうなくらい古い非常持ち出し袋が何十個と重ねられていた。  非常持ち出し袋は、中にあった銀色の防災頭巾数枚を残して捨ててやった。乾パンの缶に書かれた賞味期限は八年も前。女子高生の代表的特徴の一つである常時空腹状態は僕も例外ではないのだが、その女子高生の僕を持ってしても、さすがに開けてみる勇気は湧かなかった。  毎日完全下校時刻まで待っては、怪しまれないように、非常持ち出し袋は少しずつゴミ捨て場へと運び続け、それが今日ようやくひと段落し、体育館の掃除用具を拝借して、ある程度の掃除も終えた。床のタイルは結構剥がれてしまったけど。  廊下に運び出しただけのパイプ椅子の処置は、その内考えよう。  防災頭巾を座布団代わりに、持ち込んだコンクリートブロックを二つずつ重ねた物を四つ配置、その上から脚部を失ったこたつの天板らしき板を置く。もっと小さい板が欲しいところだけど、見つけられたのはこれだけだったから仕方あるまい。
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