第二話 Relatives

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 だからこそ、こんな反吐が出るような書類を母には絶対に見せたくない。母の目に触れさせるのは一瞬だけ、必要事項を記入をする時だけにしたい。  そのために僕はこの部屋を作り上げた。  発つ鳥後を濁さず。我ながら完璧な計画ではないか。発ちたくないという本音はこの際置いておいて。  ぶいんぶいんと携帯が震えた。  画面に表示されている「小吉」という名前は、僕の一歳年上の兄のあだ名だ。母親がいない事と同様、僕には今まで兄などいなかったので、小吉こそ兄第一号であり、僕の中では実の兄という事になっている。居場所を告げると、携帯はすぐに切れた。  金属製の小さなドアが開き、小吉が四つん這いになって入ってきた。 「兄者、我が秘密基地はどうよ?」 「流石は我が妹者」  相変わらず女声に女顔の兄者こと小吉だ。女子人気もそれなりにある自慢の兄だ。  友人の一人が学園祭で小吉先輩に女装させたいとか言っていた事にも、遺憾ながら同意する。  小吉というあだ名は別に小さいからではない。一応男子の平均身長程度はあると思う。小学生の頃に達成した四年連続で小吉を引くという偉業からついたんだそうだ。 「うわ、英語しかない」  僕と違って小吉は英語が苦手だ。この高校の普通科でも結構レベルが高いはずなのに。  英語と言うか、英会話以外の勉強がまるで駄目な僕は、国際科という胡散臭い科に紛れ込む事が出来たので、こうして兄と同じ高校にいられる。  横に座り込んだ小吉の手が、僕のうなじを撫でる。刈り上がった部分の手触りをチェックしているらしい。どうして手を動かす度に笑いを噛み殺すのか。 「うむ。今日もなかなかの手触り」 「であろう?」  褒められた事が照れくさくて武士語になってしまう。  数日前、結構長くしていた髪を、刈り上げレベルまで切ってしまった。上から後ろ髪がかぶさっているのであまり見えないが、うなじは見事な刈り上げ状態だ。
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