第二話 Relatives

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 でも、そのヘアスタイルを褒めてくれたのは小吉だけだった。  母が僕の大きく変わったヘアスタイルを見て泣き崩れ、ごめんと叫ばれたのは誤算だった。親の決断に流されているだけの僕なんかより、別れる母こそ一番傷ついている事に、その時やっと気付いた。  でも、僕には僕で、気分を変える必要があった。もうあと何ヶ月もすれば、この母の子では無くなってしまう。それが嫌でたまらなかったからだ。  二日に一度は、母が僕の髪の毛を色々とケアしてくれていた。仕事帰りで疲れているところを、沢山時間を掛けさせて申し訳ないと思っていた。まさか、僕の髪の毛を梳かすことが母の楽しみだったなんて全く気付かなかった。そんな事に時間を使うよりも、母にベタベタ甘えたかったという本音を告げると、思いっきり僕を抱きしめてくれた。  でも、母の涙は止まらなかった。母を傷つけてしまったかもしれない。 「妹者、中学時代の俺みたいな刈り上げにしたいなんて床屋のオヤジに頼んだんでしょ?兄者は複雑な気分なんだけど」 「いやぁ、求めてる短さの度合いを知って欲しくてだね」  この髪は、毎回お願いしている美容師さんは絶対に切ってくれないと思ったから、小吉が通う床屋で髪を切ってもらった。二年前の小吉の見事な刈り上げ頭が印象的だったのでそうしてくれとお願いしたまでだ。あんなにクラシックな理容室ではどう髪型を注文して良いか、皆目検討もつかなかった。  しかし、僕は床屋のオヤジの底力を甘く見ていた。結局僕の願いは刈り上げという部分だけは叶えられ、まるで青山の美容院で整えたかのようなツーブロックのベリーショートにされてしまった。青山の美容院なんて行った事無いけど。
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