3人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
その親子を初めて見たのは、
秋も深まった夕暮れ時のことだった。
大学の講義を終えた僕は、
いつものように市街行きの急行列車に乗り込み、
途中の『世の川』駅で『よみが丘』行きのローカル列車へ乗り継いで、
アパートへ向かうところだった。
僕は世の川駅のベンチに腰掛け、
二両編成の列車を待っていた。
ひゅるりと冷たい風にぶるっと体を縮こませ、
薄手のジャケットのポケットに両手を突っ込みながら、
本格的にコートが必要だなと空を見上げる。
夕焼けはいつにも増して赤黒く、
毛羽立った絨毯のようにまだらで薄い雲が広がっていた。
最初のコメントを投稿しよう!