乗車

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「ぎりぎりだったねぇ、 ママ」と、 子供がサンダルを履いた短い足をパタパタさせ笑った。 「ほんとね。 これを乗り過ごしたらあと30分待たなければならないところだったわ」  そう言って、 母親も子供を見つめにっこり笑った。  母子は見るからに仲睦まじく、 気がつけば僕は二人の姿を目で追っていた。  子供は男の子で年齢は3歳くらいだろうか。 のりものが好きなのか、 大きな消防車のついたフード付きのジャンバーを着て右手に小さな新幹線のおもちゃを握りしめていた。  母親の方は薄手の白いシャツにくるぶしの上でロールアップしたジーンズを履き、 膝丈まである長いカーディガンを羽織っていた。 二十代後半のように見えたが、 それにしては落ち着いた雰囲気があり、 もしかしたら童顔の三十代かもしれないな、 と勝手に推察する。
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