PM22:30

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こちらも珍しい。随分と大人しく、甘えた声で布団の中に潜りこむミヤコさんに少し驚く。 肩の辺りにぴったりと寄り添うミヤコさんの、人間より少し早い心臓の鼓動と体温が肌を通して伝わってくる。布団の中からそっと手を伸ばしてその背を優しく撫でてやると、ごろごろと喉を鳴らし出した。 夜になると気温が途端に落ちる。いつからか秋は本格的に始まりだしていたようだ。 その境目がいつだったかは分からない。夏がぼやけた境界線を引いて秋へと移り変わっていく。 きっと人間もこんな感じだ。たくさんのことがいつの間にか変わっている。だけどまれに、突然寒くなってそのまま冬が始まってしまうような年があるように、急激に変化が襲うようにやってくることもあるし、 季節が変わった後に後ろ髪を引かれるような、季節外れの気候に戸惑う日もある。 今日は、そんな季節外れのような日。 前の季節を思い返して、溜め息になっていく。 僕はずっと”大人”という言葉に勝手に縛られて、そういうのを格好悪いと思っていた。 まるで、ホームシックや甘えん坊の弱音のような気がしていた。 だけど、本当は必要なことだったんだ。人間がまた次の季節を迎えてるために必要なことだったんだ。 それを放棄し続けていたら、いつしか気温も天気も気にならない、どんな季節だって呆けた顔をして、心臓を動かすだけの物体のような人間になってしまっていた。 次の正月は実家に帰る前に連絡をしよう。苦手な妹に。 忙しいとごねられたら今度こそは、家族って欠けたままじゃ家族じゃないんだって怒ってやろう。 父には母に妹に、それからミヤコさんも。炬燵を囲んで、気恥ずかしい顔をしながら新年の挨拶を述べて。 きっと次の週末もスケジュール帳は白いだろう。だけどおっとり者にもこうして、ミヤコさんと出会うことはあったのだ。また大切な出会いがあるまで、その一つずつを大事にしていこう。 さて、今日もおやすみ。明日は毛布を一枚出してくるね。心の中で寝息を気持ち良さそうにうとうとするミヤコさんにそう声をかけて目を閉じた。
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