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ベランダからの景色は穏やかだ。日曜日なので道を歩く人も車も少ない。絵の具のような青色の夏の空だった頃から変わり、過ごしやすい気候になった今は、共に少し薄い水色になって透けそうな雲を漂わせている。
少し遠くに小さな鳥の小さな群れと、大きな翼の黒い鳥が一羽、互いがぶつからないように、うまく距離をとって舞っている。そんな静かな、朝。
僕はまだ取れない眠気に瞼の重さを感じながら細い目で見つめる。眠いけれど寝直すほどではなく、ただこれといって休日を埋める予定もない。
長年愛用の月曜始まりの月間スケジュール帳。平日ばかり所狭しと、文字達が蟻のように連なっているのに、いつも右側の二枠だけ真っ白だ。
時々、こんな自分に恥ずかしい気分になることがある。そういう時は、大体がこうやって穏やかで、清々しくて、世の中の平和さを感じる、晴天の朝だ。
みゃーお
振り向くと室外機の上でどっしりと構えたトラ猫がじっとこちらを見ていた。
「ミヤコさん、だめじゃないか。外は危ないよ」
僕は宥めるように言いながら、ミヤコさんを抱き上げる。重い。社会人になってからすっかり運動不足になった貧弱な腕が悲鳴を上げそうなほど重い。そういえば先週の動物病院では、先生が苦笑いでダイエット用カリカリのサンプルをくれたっけ。今日の夜ご飯はあれにしてみよう。
ミヤコさんは小さく、にゃうにゃう鳴いている。僕は丸い背中を撫でながら、
「はいはい、脱走なんてするつもりじゃなかったんですよね。僕があの辺の鳥に食べられたりしないように、心配してくれたんですよね」
と、機嫌をとってみる。言葉なんて分からないだろう猫を相手にして、端から見れば、なんとも虚しい人に見えるんだろうか。
にゃうにゃう、にゃうにゃー
ミヤコさんの機嫌はまだ直らないようだ。
巨体をくねらせて、僕の腕からするりと抜け、部屋の中へ入っていった。
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