PM2:00

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少し遅い昼食。僕の住むマンションから五分ほど歩いた場所に佇む、”食堂 みやこ”で買ってきた美しい鶯色の枝豆のポタージュと、自然な色味を出す薄桃色の桜エビのパスタをテーブルに広げる。リビングにほんわりと、食欲をそそる香りが広がっていく。 店名は古風なイメージを抱かせるが、店構えや、揃えたメニューは若い女性が好みそうなお洒落な雰囲気の洋風カフェのようだ。 実際、昼時の店内は多くの女性達が、それぞれの会話に華を咲かせ、笑ったり悲しい顔をしてみたり、時には話半分で聞いているのを悟られないように、上手い相づちを披露しながら、ころころと表情を変えている。 そんなお店で、週末つきあってくれる友人もいない独身男が食事するのは、この上ない苦痛だ。この店が特別なだけであって、本来であれば僕が食料の調達に行くのであれば、もう少しばかり遠いコンビニで弁当を買って済ましていただろう。 早速ポタージュをひとくち。ミルクの風味は少しだけ。荒々しいほどの豆の味と細くなった枝豆の食感が、口の中に入ってくる。本来はテイクアウトのサービスは行っていないお店なので、持ち帰る時のカップや皿は料理の冷めにくい素材のものではない。やや冷めてしまって、料理の最高に美味しいタイミングではないのだろうけど、それでも僕には充分に満足させてもらえる味だ。 カタン--- トンッ--- ミヤコさんがテレビ台に飛び乗って、わざわざモニターの後ろ側をに入り込もうとしていた。猫はどうして飽きもせず、狭い場所に挑み続きるんだろうか。いつもこうして、僕が食事を始めると、ぐるぐると動き出すのだ。部屋中を時には隣の部屋まで覗き込んで、落っことせそうな物を探している。 僕はもう、その周到な作戦には騙されない。ミヤコさんは物を落とすことで僕が慌てて駆け寄るのを知っているのだ。かまって欲しいわけではなく、そうして食事中の僕がテーブルから離れる瞬間を誘い、食べかけの料理を盗もうと狙っている。 落とす物は何でもお構いなしで、以前そのモニターを倒されそうになったこともあるので、今はしっかりと固定してあるし、小物類は何でも引き出しや戸棚の中にしまい込んだ。 さて、安心してパスタを平らげよう。これ以上、冷めてしまわぬうちに。 僕は中央に寄せられた桜エビ達をパスタの渦の中に混ぜ合わせた。
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