PM4:00

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PM4:00

何かがおかしい。 食後のコーヒーをダラダラと飲んだ後、僕はソファーに腰掛けると、気づいた頃には眠ってしまっていようで、いつも会社の自分のデスクで淡々とパソコンで書類を作成し提出するのだが、その後に上司に頼まれる仕事も、また同じ書類を作成してを繰り返す夢を見ていたらしい。リアリティ溢れる映像だったが、それを五回も繰り返す様はシュールだ。 なぜ現実世界では不可解な出来事にすぐに気づくというのに、夢の中ではあんなに、おかしいと思えるまでに時間がかかってしまうんだろうか。 いやいや、おかしいのは夢のことじゃない。 部屋の中に違和感があるのだ。正しくは今こうして寝転げていたソファから身を起こした視界の中の何かが、いつもと違っている。木目のテレビ台。そのテレビ台のサイズに見合わない少し小さめのテレビモニター。今じゃ活躍することがほとんどなくなったゲーム機は朝までと変わらず、埃をまとっている。まるで間違い探しのような心地で、ぼーっと見つめて考える。 「ミヤコさん、正解を教えてよ」 僕はじれったくなって解決もしない相手に嘆く。しかし、窓辺に差す僅かな陽のあたる場所で眠たそうに目を細め、返事の代わりの尻尾を一回、ぱたりとやっただけだった。 諦めて、ソファをそっと立つ。引き出しやら、物やらが散乱している訳ではないのだから、昼寝中に泥棒に入られたということも無いだろう。 あ。 これか。 立ち上がった姿勢でテレビモニターを見たとき、その裏に銀縁の端が見えた。 100円均一のお店で購入した安物の写真フレーム。昼食の時にミヤコさんが通った時にでも落とされたのだろう。 僕は少し驚きながら、写真フレームを手に取った。 絵はがきほどの大きさの用紙に描かれた水彩画の風景。このマンションのベランダから見える光景を、水彩絵の具の優しい色合いが重なったり、ぼかしたりしながら小さい紙の中に丁寧に描かれている。 「兄さん、これ引越祝いね」 「おいおい、変な物勝手に飾らないでくれよ」 「変とはなによ。この天才の私の作品よ。ありがたーく受け取りなさいよ」
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