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いつもより少しだけ布団の中に入り本を読んでみたり、気まぐれに行き来するミヤコさんの遊び相手になったりして過ごす。本来、夜行性である猫にとってはここからが一日の本番のようで、布団に入ってしまうと、わざとらしく擦り寄ってきたり、首やお腹の上にその巨体を乗せて、苦しいポイントを攻めてくる。
最初の頃は、やれやれと構ってしまう日があったのが僕の失敗。邪魔をすれば、人間は構ってくれると学んだミヤコさん。しかし人間も学ぶのだ。執拗な攻撃も飽きっぽい猫の性格では続いても三十分程度で、それを耐え抜けば、たまに思い出したように攻撃再開があるくらいで、しっかりと安眠できると分かってから、あまり構うのを止めた。
しかし今日はなぜだか読書にも集中できないで、照明を落とした暗がりの寝室の天井を見つめていた。
また呆けた顔をしている自分のだらしなさに呆れつつも、あの日の妹が再び過ぎる。
フランスに飛び立った今、連絡ですら正月のあけおめメールを交わす程度で、実家の両親以上に疎遠なままだ。
だから結局、何があったのかは分からないままで、わざわざそれを聞き出す必要もないのだと思う。
あのベランダに駆け込んだ妹を残して部屋を出た日、二時間程で帰ってきた僕を妹はいつもと何ら変わりない笑顔で、
「遅いじゃないの、そろそろ帰るからね。あー、それと今月から食堂 みやこでバイト始めたから、顔出さないでよね。恥ずかしいし。十九時までの営業だから夜も早いし安心よ、店主さん女性なんだけどとっても良い人でね、ミヤコさんのこと話したら、店主さんも猫を飼っているとかで盛り上がっちゃって。
あ。もうこうこんな時間、バイト行かなきゃ」
とパワフルなお喋りも復活していた。どう見てもいつもの妹だ。
慌ただしく手荷物をまとめて服を少し整え、小走りで玄関に向かうので、よたよたとついて行くと急に妹が方向転換。
「忘れてた!」と叫んで手提げ袋から一枚の紙をやや丁寧に出して、僕につきつけた。
それがあの絵だった。引っ越ししたのは何年も前だったというのに今更の引越祝い。僕の文句もほとんど聞かずに妹は出て行ってしまった。
みゃーお。
思い出旅行に出かけていた意識が、ミヤコさんの声で還ってくる。
どうも感傷に浸ってしまう日だ。
みゃー
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