『考えられへん!』

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「考えられないな。キム兄なら『考えられへん!』って言うと思うぞ。俺は憶えている。おまえは小2で俺が小5だった頃の夏休み明け…一階がおまえのクラスで丁度その上の二階が俺のクラスだった。俺は窓辺の席に座っていた。暑いから窓を開けていた。すると下のクラスがすごくざわついて俺の耳にも入って来た。その時はよくわからなかった。それでそのあとの休み時間に俺はおまえのクラスの担任に呼び出されたんだ。さっぱり意味がわからなかった。要するにおまえが夏休みの宿題の日記に、ありもしない『火星に行った日記』を書いていて授業中にちょっとした騒ぎになってしまったんだ。そして兄である俺におまえの弟は大丈夫なのかって次の授業に割り込むくらい結構長い時間聞かれたんだ。」 「そういえばそんなことあったかなぁ。」 「その時おまえの先生が心配していたのは日記に書かれた嘘よりも、それをクラスじゅうに非難されても全く認めようとせず火星に本当に行ったと虚勢を張り続けたことだ。結局その場はなんとかなったが俺はそれからもおまえの虚言癖には随分振り回されたな。」 「もう過去のことなんてどうでもいいじゃん。たまに兄貴は昔の細かいことまでいちいち思い出すけど憶えてて何か意味あるの?」 「俺はおまえと違って嘘をつくのが嫌いだし嘘をつかないから素直に起こった出来事をそのまま憶えているに過ぎないんだ。おまえはきっと、逆に嘘ばかりついているからそんな自虐的な思いに駆られたくなくて過去を思い出さないようにしているんだ!」  場の雰囲気が悪くなってきたのを察して父親が「せっかく久し振りに家族全員揃ったのだから揉めるんじゃない」と言った。  兄も弟も気を取り直して晩御飯を食べた。
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