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「音無くん……本気でいってるの?」
「本気だ。これからは本気で仕事する。本気で頑張る。本気で生きる。だから、オレにもチャンスをくれ」
試薬のせいでやる気が向上したということか。
夢の中で作用し、無意識のうちに自分の中に埋もれていた情熱が引き出されていたということか。
でも、それでもいい。
これで、すべてがうまくいく……と思う。
そして、目が覚めた。
そこは音無がさぼりのために利用するいつもの公園だった。コンビニで買ったスナック菓子をハトにまくのが社会人1年目にしてここ最近の彼の日課と化しているらしい。
「痛いなぁ、もぉ……」
ついさっき、ここまで来る途中の砂利道で派手に転倒し、手のひらが裂けた。傷ついたその部分が激しく疼く。
この後はまたいつものカフェで時間を潰すかな‥‥と、手のひらを見つめながらぼんやりと考えている音無の上体に影がかかる。顔を上げるとそこには響しずかが立っていた。
「音無くん」
「響さん、どうしてここにいるの?」
「あなたも例の試薬のモルモットにされていたようね」
「モルモット?」
「私も同じ。だからこそあの女の事、夢の中で知る事ができたの。これって試薬の効果なのかしら。それとも副作用なのかしらね」
響しずかの口調は嬉しそうにはずんでいた。
「あの女は夕べ、殺してやった。人の男を横取りしたんだから当然の報いよね。これで、やっと邪魔者は消えたと思ったのに、あんたなんかに台無しにされたくないの」
「あの……? どういう事?」
「あの女を殺したのはあなた。そして自責の念にかられて自分もあとを追って自殺するの。いいアイディアでしょ?」
響しずかは、ケタケタと笑った。その後手には乾いた血がこびりついた包丁が握りしめられていた。
「目が覚めたら、これで、すべてがうまくいく…… ね?」
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