第1話 日本、最前線

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『こちら1号車小千谷、5号車現状を報告せよ』 欝蒼と茂る木々に囲まれた山間部。 木漏れ日も差し込まない薄暗い森の中。 イヤホンから聞こえる声はその静寂の空間に小さく響いた。 迷彩服に身を包み、顔にも迷彩のペイント、背中とヘルメットに縛り付けた木の枝により完全に自然と同化していた青年は双眼鏡を目から外しインカムを口元に寄せた。 「こちら5号車青樹、奴らは作戦地域102を北上し101への侵攻中。規模は2個中隊。現在対面山頂付近にて待機中」 襟に光る少尉の階級章、青樹道隆少尉は目の前で起きている事実を小声ながらはっきりとした口調でインカムへと伝えた。 直線距離で300メートル、沢の流れる谷を挟んで正面の山に奴ら「アジア連邦」侵攻部隊は待機していた。 戦車数両に歩兵が50~100名、アジア連邦の中隊クラスの部隊である。 『尾根を下りそうか?』 「下るかと思われます。こちらは崖なので尾根を下り東へ少し迂回した浅瀬から101へと侵入してくるかと」 『奴さん、平地じゃ敵わんと見て山間部から奇襲をかけるつもりだろうが折角青森から追い出したんだ。そう易々と迎え入れてはやれんな』 「その通りですね。しかし、こちらからの攻撃を読んでいるかもしれません」 『いくら駐留の予備軍だとしてもそれくらいは想定しているだろうな。それに規模もこちらより遥かに多い。正面からぶつかれば一撃だ』 そこまで聞くと青樹は再び双眼鏡越しにアジア連邦中隊を見た。 戦車の編成は軽戦車を主軸としており中戦車は数両、重戦車や自走砲は見受けられない。 機動力を生かして山間部を一気に突破、こちらの陣地へ雪崩れ込む作戦だろう。 「進言します。尾根を下っている最中に5号車から攻撃を仕掛けます。その隙に本隊は迂回路に移動・待ち伏せし浅瀬を進行中の敵を叩いてください」 「浅瀬といえど足首までは水に浸かっているので歩兵の動きも鈍いでしょう。3甲戦(第3機甲戦闘隊)と第5中隊でも撃退可能かと思われます」 『……了解した。タイミングはどうする?』 「ありがとうございます。タイミングは奴らが尾根の中腹まで下ってきた時、そちらは移動してもらって構いません」 『分かった。これより行動を開始する』 「了解」 通信を終えると同時に青樹はインカムを首元まで下して勢いよく立ちあがった。
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