第9章  ピンクの秘密(続き)

3/16
前へ
/38ページ
次へ
「何か、あったのね?」 私は、彼の背中を愛撫するように摩りながら静かに訊いた。 だが彼は、心の躊躇いを物語るかに再び押し黙る。 そして、 「俺……」 再びポツンと言った彼の声を、疲労と絶望にも似た感覚が 放心したように、ぼんやりとしたものにさせていた。 「美沙ちゃんがアメリカにいた頃、 一度だけ電話したことがあったの憶えてる?」 うん――。 出来るだけ優しく言った私は、同時に急いで過去の記憶を手繰った。 そして、確かにあった。 アメリカに行って、数年してからの事。 一度だけ、アメリカ本土に時差がある事を知らなかった彼が、 西海岸にいる私に真夜中に電話してきたのだ。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加