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「何か、あったのね?」
私は、彼の背中を愛撫するように摩りながら静かに訊いた。
だが彼は、心の躊躇いを物語るかに再び押し黙る。
そして、
「俺……」
再びポツンと言った彼の声を、疲労と絶望にも似た感覚が
放心したように、ぼんやりとしたものにさせていた。
「美沙ちゃんがアメリカにいた頃、
一度だけ電話したことがあったの憶えてる?」
うん――。
出来るだけ優しく言った私は、同時に急いで過去の記憶を手繰った。
そして、確かにあった。
アメリカに行って、数年してからの事。
一度だけ、アメリカ本土に時差がある事を知らなかった彼が、
西海岸にいる私に真夜中に電話してきたのだ。
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