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だが、それは無理だった。
そしてその答えは、彼の言葉となって私の耳に返ってきた。
「だけど、美沙ちゃんにとって俺は、やっぱり過去だった。
それが分かったから、俺は彼女と結婚をした。
だけど俺は、やっぱり……、やっぱり美沙ちゃんを忘れきることが
出来なかったんだ。だから……」
苦しげに言葉を切って項垂れた彼は、泣き出しそうな声になった。
「俺ってさ、本当にずるいヤツだと思うよ」
自嘲気味に歪められた彼の表情が、辛そうに言う。
「俺達、子供が出来なかったんじゃなくて、俺が子供を作らなかったんだ。
どんなに彼女が欲しがっても、俺は、とうとう一度も直に彼女の中には
入らなかった。俺、作れなかったんだ、子供……。
ホント、どうしようもないほど卑怯なヤツだと思う。
だけど、どうしても……、どうしても、もしかしたらいつか美沙ちゃんと
再会するかもしれない。そうしたら、っていう感情を捨て切れなかった。
だから……」
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