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ちょっぴり湿っているワイシャツの下の彼の腕は、
心の落胆を表すように沈んだ冷たさがあった。
私は、彼の肩に頭をもたれ掛け、彼を抱きかかえるようにして
彼の背中に腕を回した。
懐かしいガウンの感触の下の彼は、
まるで絶望の淵に立つ罪人のように力がなかった。
「俺……、大阪に行かなきゃならないんだ」
あまりにも彼らしからぬ言動から、何かあるだろうと想像してはいた。
なのに私は、無能にも彼の言葉をただ繰り返す。
「大阪?」
「うん。あっちで、パーツ製作の会社を新たに子会社化することになってさ。
そこに出向しろ、って」
私の脳裏に、ふっと誕生日の数日前に、
慌てて空港からかけてきた彼の電話が蘇った。
「何年くらい行くの?」
しかし、私の言葉に、彼はわずかにかぶりを振った。
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