無愛想な男

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「……」 レジカウンターに買い物かごを置いても「いらっしゃいませ」のひと言もない。 深夜にあまりにも元気よく挨拶されるのもどうかと思うが、彼の場合はおよそ客商売には向いていない性格らしい。 無愛想男と私、二人だけの空間にバーコードを読み取る電子音だけがやたらに響く。 「1359円になります」 いくら無愛想な男でもさすがにこれだけは口にする。 財布から二千円を取り出しカウンターに置く。 ここで『二千円お預かりします』などと言う言葉を期待してはいけない。 あくまで無言を貫き通すのが彼流らしい。 マニュアル的にはどうかと思うけど。 「641円のお返しです」 無愛想なくせにいい声をしている。 何気にこの声がお気に入りだ。 怖いもの見たさとでもいうのか、なぜかこの男から目が離せない。 どうやら私はこの無愛想な男が気になって仕方がないらしい。
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