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何、その理不尽な二択!
「有り得ない」
「はい。今ので、姫抱き、決定」
「えっ? ちょっ、待って」
必死で逃げた。立ち上がって僕に両手を伸ばしてきた桧山から。
「痛っ」
そしたら、ぐっと足を踏ん張ったせいか、ずる剥けになった膝の傷口が開いてうずくまる結果に。
僕って、ばかだ。でも、おんぶも姫抱きも無理。
「すみません! 痛かったっすよね? 俺がふざけたせいで」
「え? あっ」
「俺が悪い。つーことで、さっさと帰りますよ」
「ひっ、桧山?」
「文句は、学校に戻ってから聞きます」
あれ? 桧山は、何をどうやったんだろう。
膝の痛みに顔をしかめた僕に後ろ向きに近づいた相手に腕を引っ張られた。で、その背中に体重を乗せることになってる。
「この体勢も、ほんとは痛いっすよね? けど、早く戻って着替えたいし、我慢してください」
「うん、大丈夫」
本当は、桧山の言う通りだ。足、痛い。だって僕、ちゃっかり桧山におんぶされてる。
強引に取らされた体勢だけど、おんぶの姿勢を維持するために僕の膝裏に桧山の手がかかってる。つまり、桧山が歩を進める度に、傷口に少しの痛みが走るんだ。
でも、それでいい。痛いほうがいい。そのほうが助かる。すごくドキドキしてるから。僕の鼓動は、息苦しいほどに跳ね上がってるから。
好きな相手と身体が密着してる、この体勢。僕の心臓の音、もしかしたら桧山に伝わってるかもしれない。頭だって、ぼうっとしてきたよ。
緊張のあまり、何か変なことを口走ってしまいそうなんだ。だから、傷の痛みがその抑止力になってくれるのは、ありがたい。
もっと痛みが増せばいい。痛くなれって願う。ばかな先輩が、ついうっかり『好き』って零してしまわないように。
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