憧れと嘘【2】

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「ひひっ、桧山っ?」  何してるんだろう、僕は。  誰にもキスされたことのない場所に、好きな相手の唇が触れた。テンパってる。頭が沸騰してテンパりまくりなんだよ。  だから、この場合、言うべき台詞は、ひとつ。『もう痛くない。自分で歩けるから、おろしてくれ』だ。 「桧山っ」 「どうしました? 傷、痛みますか?」  なのに、どうして僕はその台詞を言わず、逆のことをしてる? 「なん、でもない」  桧山の背中で暴れて、無理矢理にでも離れたらいいのに。そうしたら、この泣きたいくらいのドキドキからすぐに解放されるのに。 「大丈夫。挙動不審、ごめん」 「なら、いいんですけど。でも、痛かったら遠慮せず言ってください。あと、学校に着くまで、そうしてもらえてたら助かります。さっきより格段に運びやすいんで」 「うん」  暴れるどころか、桧山にしがみつく腕の力を強めてしまってるのは、なぜなんだろう。『運びやすい』って桧山に言わせるくらい、その背中にガッツリと体重を預けて。これ以上ないほどにギュッと抱きついてる。  逆だよ、逆! 何やってるんだよ、僕っ。  飽和状態のドキドキのせいで、おかしくなった? 脳が沸騰しすぎて酸素不足だから、考えてることと真逆のことをやってしまう病気にかかったのかな?  うわ、どうしよう。じゃあじゃあ、『好き』って言わないように我慢してたらポロッと告っちゃうかもしれないってこと? えっ? それ、困る。すごく困る! 「あー、なんか……今の伊勢谷先輩、可愛いっすね」 「うわあぁっ! 嫌い、嫌い! 嫌いなんだよっ!」 「え……」  あっ!
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