憧れと嘘【5】

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「伊勢谷先輩?」 「なっ、何っ?」  それなのに、当たり前だけど桧山はそんな僕の羞恥心や緊張には気づいてくれるはずもなく。せっかく僕が発車標を見るふりで身体をずらしたというのに、僕の袖をくいっと引いて声を掛けてくる。  そんなことをされてしまえば、そっぽを向いてる状態を申し訳ないと思ってる僕は、すぐに視線を戻してしまうんだ。 「何、かな?」  身体だって、ストンっと元通りに椅子におさめてしまう。 「言いそびれてました。3区の区間賞と区間新記録、おめでとうございます」 「あ、ありがと」  うわぁ。何、これ。 「去年に引き続きの区間賞、すごいです」 「そ、そうかな?」  どうしよう。僕、顔赤いよ、きっと。褒められてるからじゃない。桧山が見せてくれてる笑顔のせい、だ。 「あーっ、俺もその場にいたかったなぁ」  可愛い。すごく。そう思ってしまったから、一気に頬が熱くなった。  僕が見てきた桧山の笑みって、たいてい、少しふてぶてしい印象だ。けなしてるわけじゃなく、自我の強さと自信がそこに表れてるからなんだけど。 「1区に次いで長距離の3区で新記録作るなんて、すごいっす。マジで」  今、僕に向けられてるこの笑みには何の邪気もなく、ただただ、あどけない。  こんな愛おしい一面を見せられて、ぼうっとするな、なんて無理だ。赤面しまくるよ。決まってる。だって、大好きな相手なんだよ?
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