憧れと嘘【5】

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 部活の休日が二日連続だなんて、滅多にない。 「ほら、祝勝会的な意味も含めてさ。準優勝だけど、頑張ったんだから祝っていいだろ?」  明日、しっかりと身体を休めて。それで明後日、慰労会で気分転換を図る。 「場所は、もう決まってるんだ。静流先輩の家。桧山は知ってるかな? 有名なお蕎麦屋さんなんだよ」  今日、桧山も智穂もすごく頑張ったし、改めてねぎらってやりたいっていうのが本音だ。  静流先輩は僕の区間賞も祝うって言ってくれたけど、たまたま記録が伸びただけの僕よりも、体調不良を乗り越えて完走した桧山のほうが断然すごい。 「僕も、何度もお邪魔したことあるんだけどさ、ものすごく美味しいんだ。もちろん、蕎麦メニュー以外も充実してるし、きっと桧山も気に入るよ。皆で楽しく過ごしてさ。英気を養ったら、また新たに頑張ろう?」 「……さい」 「ん? 何?」  もう、意識は、明後日に飛んでいた。もう一度、桧山に『おめでとう』って言えるんだ、と。  そうしたら、また、さっきみたいな可愛い表情(かお)、見られるかな? そうだといいな、と。 「桧山?」 「うるさい! うるさいんだよっ!」 「え?」 「黙れよ。何、ひとりで盛り上がってんだよ。ふざけんな!」  浮き立った気持ちのまま笑顔で見やった桧山は、その僕の全てを拒絶するように怒りを迸らせていた。
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