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「苦しい? ごめんな。けど離さないよ。離したら、また逃げるだろ?」
でも可哀想だから、そう言いつつもフードを引っ張りすぎないように力加減を調整する。
「というか、電車に乗らずに、どこに帰るつもり? ほら、とっととホームに戻るぞ」
そして、早速Uターン。ただでさえ遅延してるのに、次の電車に乗りそびれたら大変だよ。
「な、んで、追いかけて、きたんですか?」
プラットホームへの階段をおりる途中、小声で問いかけが飛んできた。あんなに勢いよく逃げ出したわりには、僕に従っておとなしく階段をおりているヤツから。
けど、僕からはその顔は見えない。パーカーのフードを掴んでる僕が、桧山よりも一段上にいるからだ。
「なんでって。追いかけるだろ? 普通。そもそも、一緒に帰ろうって誘ってきたのは桧山じゃないか」
「そうだけど! でも俺、さっき告白っ……あっ」
告白、と聞こえた。今のは聞き間違いじゃない。ちゃんと聞き取った。じゃあ、あれも空耳じゃないってことになるよな? あの叫びが。
——俺はっ……俺は、こんなに、あんただけを好きなのにっ!
「桧山。さっきのあれって、告白、だった?」
ほんと?
「気持ち悪く、ないんすか? 俺、男で……男があんたに告ったんですよ。ずっとずっと! 先輩のこと、ずっと好きだったんですよっ?」
「あ……うわぁ」
その場にそぐわない、間延びした声が漏れた。
同時に、ぶわぁって、一気に顔が熱くなった。
当たり前だ。ずっとずっと好きで。人知れず切ない片想いに身を焦がしてきた相手が、今、全く同じ気持ちを返してくれたんだ。僕と同じくらい、真っ赤に染めた顔を晒して。
そりゃ、気持ちも熱も急上昇だよ。全身が、ぞわぞわするくらい火照ってる。そして、その火照りと熱が、僕に勇気を与えてくれた。
「気持ち悪くない。僕も好き……桧山が、好きだ。ずっとずっと、片想いしてきた」
桧山を安心させるための返事に、僕からの告白をドキドキつけ加えてみるという勇気を。
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