憧れと嘘【epilogue】

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「先輩。あの理由、教えてください。明後日の慰労会に、俺を誘った理由」  遅延到着予定よりも更に十五分遅れてホームに滑り込んできた電車に、ようやく乗り込んだ。  その座席に横並びに座り、車体の揺れに身を任せ始めて、すぐ。隣の相手から、ぼそりと低い問いかけが発せられた。 「え、理由? そんなの、すごく頑張った桧山をねぎらいたかったから。それだけだよ」  それ以外、何もない。即答で返すと、それで納得してくれるはずの桧山は、微妙な顔つきでまた口を開いた。 「や、それは『慰労会』ってネーミングでわかるんですよ。俺が聞きたいのは、伊勢谷先輩が途中まで喋ってた、『僕が桧山を誘ったのは、静流先輩が』の後の(くだり)っす」 「あっ、あれか。お前が突然豹変して怒鳴り始めたせいで言えなかった、続き?」 「うっ……そ、そう。俺のせいで途中で遮った、それっす。つい、かっとなって、怒鳴ってすみませんでした。けど、その続きがすげぇ気になってるんで教えてください」  なーんだ。実は聞きたかったのか。『もう、いいって!』って遮ってきたのは桧山なのに……そっかぁ。 「『静流先輩が』の後はさ。『そんなに桧山が可愛いなら慰労会を開こうって言ってくれたから』って、続けるつもりだったんだよ」 「は? 何、それ。先輩には悪いけど、前後の繋がりが全く見えない。理解不能っす」 「えっ、通じてない? 弱ったな」  えー? 仕方ないなぁ。なら、激しく照れるけど、もう少し丁寧に説明する?
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