憧れと嘘【epilogue】

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「えーっと、じゃあ、少し遡って話すよ? あのさ、まず、僕が慰労会に誘ってる途中で、いきなりお前が怒り出しただろ?」 「は、はい」 「で、僕、考えたんだ。『桧山と過ごせる慰労会が楽しみすぎて、僕には珍しくペラペラ喋りまくってるうちにコイツの気に障ることを言ってしまったんだろうから、その挽回をしなくちゃ』って」 「え?」 「それで、かなり恥ずかしいけど、慰労会を開くことになった元々の理由。静流先輩とのやり取りを話そうって思ったんだよ」 「あ、あれを……」 「僕的には、そんな自覚は全然なかったんだけどね? 二年生になってからの僕って、静流先輩に話しかける内容は全部、お前絡みのことだったらしくて。大会前の調整メニューの件で相談した時に、その指摘をされたんだ。『隼は本当に桧山が可愛いんだな』って。ふふっ。この説明、やっぱり恥ずかしい」  桧山が真剣な表情で聞いてくれてるから続けるけど、相当な羞恥プレイだよ。 「で、一瞬、恋心を見抜かれたかと焦って必死で否定したらさ、『無自覚かぁ』って余計に笑われて。でも、その後、言われたんだよ。『俺から見たら、隼は桧山をすごく可愛がってるよ。なのに、どこかアイツに遠慮してる部分、あるだろ? それは桧山のためにならない』って」  長い言葉を、ここでいったん切った。深く静かに、息をつく。  夕方を目前にした比較的空いている時間帯とはいえ、同じ車両には、ざっと見ただけで十数人は乗客がいる。周囲にいる人たちへの遠慮から、目立たないよう平静に説明してるつもりだけど、胸中は羞恥でドキドキだ。
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