雨の夜

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「透子さん。お願いがあるんです~」 就業時間も終わりそうな頃、後輩の女の子がそう言いながら、しなだれかかってきた。 「今日、これから合コンがあるんですけど、まだ仕事が残ってて困ってるんです~」 「……分かった。仕事って、どんな?」 「さすが~!透子さん、頼りになるっ!」 後輩までにも、都合よく便利づかいされているのは分かっている。 だけど、こうやって頼られてくる限りは、私はここで必要とされていると感じることができる。 押し付けられた仕事は、明日の会議で使う資料づくり。後輩が作りかけていたものは使い物にならず、結局初めから作り直す。 仕事が終わったのは、午後九時ごろ。夕方は降っていなかった雨が、本格的に降りしきっていた。 傘もささずに駅まで歩いて行けるような状態ではなく、小降りになるまでしばらく人気のないビルの入口で待つことにする。 しかし、雨はますます激しくなるばかりで、どうしようかと途方にくれる。 その時、雨音の中に人の気配がした。目を向けると、あの五条という人が私に向かって傘を差しかけていた。 「この傘、使って」 と差し出されて、私もとっさに受け取ってしまう。すると五条さんは踵を返して、傘もささずに雨の中に飛び出して行った。
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