雨の夜

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私は呆然と五条さんが溶けて消えた雨の闇を見つめていたが、ハッと我に返った。 五条さんが走り去ったのは裏通りの方で、その姿はもうどこにも見えなかった。だけど、追わなければならない……そう思った。 この前はその前から逃げ去ってしまったけれど、もう一度会って話をしたかった。そうして、この不思議な感覚を確かめてみたかった。 でも、五条さんがどっちに行ってしまったのか分からない。街の角ごとに見回して、やみくもに走り回っていたら、何かにつまずいて転んでしまった。 転がっていく傘。雨に打たれながら、暗がりの中で座り込む。自分が何をしているのか分からなくなって、ジワリと涙が滲み出してきた。 「……大丈夫か?」 声をかけられて見上げると、五条さんがずぶ濡れになりながら手を差し伸べてくれていた。 水滴がしたたり、私を見下ろしている五条さんの顔。 私は五条さんの言葉に応えることもできず、ジッとその顔を見つめることしかできなかった。 夢の中……だけではなく、この顔には見覚えがあった。 私の人生の中の出来事。どこで?いつ?考えても答えの方から逃げていくようで、思い出せない。 五条さんは何も言わず、私の腕を取って立ち上がらせてくれた。
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